スコット・サムナー翻訳

名目GDP目標、マーケットマネタリズム

ラルス・スヴェンソン「流動性の罠から脱出する確実な方法。本当に可能か?日本は救えるか?」

  • 2001年4月投稿。
  • 翻訳記事はここです。

 

日本は景気停滞とデフレによって既に10年を失っている。悪い政策を続けてきたことで、他の選択肢を見失っているのかもしれない。ゼロ金利政策は1999年2月から2000年8月まで実施され、2001年3月には"量的緩和"を通じて再開されたが、景気回復をもたらすには不十分だった。デフレ期待があることによって、実質金利はプラスのままだった。しかしゼロ金利が金融政策の限界だと考える必要はない。実際に日本経済を復活させる確実な方法がある。(詳細については"開放経済におけるゼロ金利制約:流動性の罠から脱出する確実な方法"を参照)。日本銀行(金融政策担当)と財務省(為替政策担当)は、停滞とデフレを、成長と低インフレへ転換させるために協力する必要がある。

以下のようにするのが確実だ。

1.右上がりの物価水準目標を発表する。
2.円を切り下げた上で、一時的に為替をペッグする。
3.物価水準目標に到達したら、為替ペッグを放棄してインフレ目標に切り替える。
日銀と財務省は、それに応じた行動を取らなくてはならない。

物価水準目標は最高の名目アンカーであると同時に、一時的な為替ペッグからの出口戦略を考える時の目安にもなる。「物価ギャップ」を解消するために、物価水準目標は現在の物価水準より高いところからスタートすべきだ。ゼロインフレ或いはデフレが何年も続いたことで、物価水準は事前に予想されていた水準を下回っている。このことは債務の実質価値を増加させ、企業や銀行のバランスシートを悪化させる要因になった。物価ギャップは10~20%以上かもしれない。目標とする物価水準は、インフレ目標と同じくらいのペース(例えば年1~2%ほど)で引き上げられる。

物価水準目標を達成するにはどうすればいいのか?ここで通貨切り下げと、一時的な為替ペッグの出番だ。第一に、通貨切り下げと一時的な為替ペッグは、技術的に可能である。もしペッグが失敗しても、円はもとの水準に戻るだけなので、これは良い投資になる。この場合では、最初に円に対する超過需要が存在している。しかし日銀は円を無制限に印刷して、外国為替を買うことが可能なので、超過需要は容易に満たされる。実際のところ、通貨高圧力が働いている中で固定為替レートを守ること(このとき外貨準備は増加する)と、通貨安圧力が働いている中で固定為替レートを守ること(このとき外貨準備は減少する)には大きな違いがある。したがって、ペッグを維持することは可能であるし、数日後にはペッグの信頼性が確立されるだろう。

第二に、実質為替レートが長期の均衡実質為替レートを超えて減価されるほどの、大幅な円切り下げが必要である。そのためには為替レートを1ドル140~150円か、あるいはさらに円安水準でペッグする必要がある。このとき、将来的に実質為替レートは増価しなければいけない。したがって、市場と一般市民は将来の実質為替レートの増価を予想することになる。しかし為替レートはペッグされているので、実質為替レートの増価は、国内物価水準の上昇によってのみ可能だ。そのため純粋なロジックから、ひとたび為替ペッグの信頼性が確立されると、市場と一般市民は将来のインフレを予想するようになる。したがって、悲観的なデフレ期待は、楽観的なインフレ期待に転換されるだろう。

第三に、将来の実質為替レートの増価が予想されれば、長期実質金利が下落するだろう。実際に、国際資本市場の均衡によって、(期待実質為替レートの変化を加味した)期待実質収益率は、日本と他の国々でおおよそ並行して動かなくてはならない。日本の長期実質金利の下落は、上述したインフレ期待の上昇の結果として見ることもできる。

これら全てが日本経済を急速に復活させ、産出と物価水準は上昇するはずだ。第一に、実質為替レートの減価は、日本の輸出部門と輸入競合部門を刺激する。第二に、長期実質金利の低下は、日本の消費と投資を刺激する。したがって総需要と産出が増加する。第三に、実質為替レートの減価と総需要の増加、それにインフレ期待の上昇は、インフレと物価水準の上昇をもたらす。

現実の物価水準は、物価水準目標に近付いていくだろう。物価水準目標が達成されたら、為替ペッグを放棄して円を変動為替相場制に戻し、日銀は明確なインフレ目標を採用するべきだ。

この方法に周辺国や米国の協力は必要なく、日本単独で実行することが可能だ。実質為替レートの減価に異議を唱えるのは、間違っている。日本の景気回復には実質金利の低下が必要であり、実質為替レートの減価と実質金利の低下は、コインの裏表のような関係にある。実質為替レートの減価は、短期的に日本の輸出業者が競争力を得ることを意味するが、日本が成長して総需要が増加すれば、世界からの日本の輸入が増加する。したがって、これは近隣窮乏化政策ではない。中長期的には周辺国や米国、それに世界が日本の景気回復から利益を得るのだ。

日本が受けている他の提案は、インフレ目標や円安に焦点を当てている。この方法はそれらと一致しているが、円のペッグ、物価水準目標、為替ペッグからの出口戦略という形で、より良いベンチマークを提起している。また為替ペッグを行えば、景気停滞とデフレを終わらせることで信頼を得るのだという、日銀と財務省の決意をすばやく証明することができる。

最後に、この方法は構造改革の必要性や、日本の金融セクターを浄化する必要性を減らすものではないことを付け加えておく。