スコット・サムナー「人口減少はデフレを招くか?」

  • 2017年3月19日投稿。

 

日本が人口減少の「逆風」に直面していると主張する記事は多い。人口減少は総需要の減少とデフレをもたらすと想定されている。それは正しいかもしれないが、その理由は多くの人の想像とは違う。

人口減少の最も良い例は1345年から1400年に人口が半減したヨーロッパで起きたことだ。(データの正確さは確信できない)。実際には黒死病がインフレを促進し、特に賃金を上昇させる効果があったことを示す証拠がある。

しかし黒死病には他の経済効果もあった。(英国を研究している)グレゴリー・クラークのグラフが示すように、疫病が流行した後の実質賃金の上昇はそこまで劇的ではなかったが、長期にわたって持続していた。

これはまさに私の予想通りだ。疫病は有名な交換方程式の「M(貨幣量)」を減らさない。貨幣流通速度を低下させる可能性はあるが、数十年以上にわたって、中世の人々がお金を支出する速度に大きな影響を与えたとは思えない。MVが減少しないのであれば、それは総需要に影響がないことを意味する。黒死病が実質産出(Y)を低下させることは明白なので、物価が上昇すると推測できる*1

この点に困惑する人が多いのは、「総需要」を「買い物をする人々」という誤った意味で理解しているからだ。つまり実際には名目上の概念である総需要を、実質上の概念として考えてしまっている。ここ数十年で最も爆発的な総需要の増加があったのは2008年のジンバブエだが、ショッピングモールが大勢のジンバブエ人で溢れかえったわけではない。その大部分はインフレによるものだった。

日本は黒死病に匹敵する人口減少の渦中にある。(幸いにも寿命ははるかに長いが)。日本の労働市場について、WSJ紙は以下のように論じている。

労働力不足によって、日本の派遣労働者とパートタイム労働者の賃金上昇率はフルタイム労働者よりも高くなっている。

今年1月のパートタイム労働者の時給が前年比2.6%増だったのに対し、フルタイム労働者の基本給は0.4%増だった。

ビースタイル(パートタイム雇用の求人サイト)では、2月の平均時給は1,087円で、2ヶ月間で7%以上高くなった。

ビースタイルの研究所所長・川崎敬太郎は、「少子化によって、危機的な人手不足が起きています。時給を上げないと人は集まりません」と述べた。

それらの賃金上昇はそこまで印象的ではないので、それをどう判断していいかは分からない。しかし基本的な点は正しい。他の条件が同じなら、人口減少は賃金上昇をさせるはずだ。では日本の賃金上昇が弱々しいのはなぜだろう?それは他の条件が同じではないからだ。日本は厳しい金融引き締め政策によって、名目GDP成長を減速させている。

もう1つの間違いは、人口減少によって商品に対する「欲求」が減り、総需要が弱まると想定することだ。実際には欲求は無限大だ。日本の住宅市場について、FT紙の記事は以下のように論じている。

あなたは日本の住宅に同情するだろう。建て替え年数は平均でたったの26年だ。あるいは日本の住宅を現代建築学の実験場にした、活発な再開発の文化を面白いと思うかもしれない。

日本の人口1人当たりの建築家の数は英国の5倍、米国の7倍で世界最多だが、それは決して偶然ではない。日本では彼らが必要とされている。2015年に日本は新たに約100万戸の住宅を建設した。

その年の米国の住宅建設数は110.8万戸で、日本とほぼ同じくらいだ。FT紙の記事を読んでいなければ、私は米国の住宅建設数は日本の10倍くらいだと推測しただろう。日本の人口が激減していく中で、米国の人口は順調に増加している。よって米国の人口1人当たりの住宅建設数は、日本よりはるかに多いと予想される。米国の人口が約3倍である事実を加味すると、住宅建設数は日本よりも圧倒的に多いと予想される。おそらく桁が1つ多くても不思議ではない。

日本の高水準の住宅建設数は欲求が無限大だと考えなくては説明がつかない。日本の問題は人々が望むライフスタイルを発見できないことではない。中央銀行が人々の夢を実現できるだけの名目GDPを作り出すかどうかが問題なのだ。

 

PS.人口減少が総需要の減少につながる可能性はある。人口減少はヴィクセルの均衡利子率*2を低下させるかもしれない。愚かな中央銀行が期待NGDPの代わりに金利を目標にしているなら、均衡利子率の低下は金融引き締めを意味し、総需要を減少させるだろう*3。しかしその場合、問題の原因は人口減少ではなく愚かな金融政策にある。

*1:交換方程式MV=PYで、M=貨幣供給量、V=貨幣の流通速度、P=物価水準、Y=実質産出である。ここでPYは名目支出の合計を意味し、これは名目GDPや総需要と言い換えられる。MVが不変ならPYも変わらず、人口減少でYが低下すれば、必然的にPが上昇する=インフレが起こることになる。

*2:需要と供給を一致させる利子率のことで、それ自体は観測できない。実際の金利が均衡利子率より高ければデフレに、低ければインフレになるとされている。

*3:需要と供給を一致させる利子率が低下したにも関わらず、中央銀行の設定する金利が変わらなければ、インフレ率が低下し、場合によってはデフレが引き起こされる。