スコット・サムナー「フィンランドのベーシックインカム実験」

  • 2017年1月2日投稿。

 

フィンランドはユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)制度の実験に取り組んでいる。

フィンランドは過激な実験を開始した。そこでは2000人の市民が所得を保証され、仕事をしてもしなくてもお金が与えられる。

今月始まったこの計画は「ユニバーサル・ベーシックインカム」をテストする最初の試みの1つだ。参加者は所得や財産、雇用形態とは無関係に、毎月560ユーロ(587ドル)のお金を受け取る。

このアイデアでは、特に技術進歩が人間労働の必要性を減らすので、所得保障は労働者に安心感を与えるとされている。また、失業者は給付を失うことなく雑用の仕事にありつくことができる。

最初の計画は2年間実施される予定だ。参加者は無作為に選ばれるが、失業給付か所得補助を受け取らなくてはいけない。計画を通じて支払われるお金は課税されない。

計画が成功すれば、対象をフィンランドの成人全員に拡大できるだろう。フィンランド政府は、この構想が長期的にはお金の節約になると考えている。国の福祉制度は複雑で運営コストが高いため、それを簡略化すればコストのかかる官僚組織を縮小できる。

また、失業給付を失う心配がなくなるので、失業者が仕事を探すことを促進するだろう。現在、一部の失業者はパートタイムの仕事を避けている。なぜならわずかな所得増加によって、失業給付が打ち切られてしまうからだ。

上記で説明されている理由から、自由市場を支持する多くの経済学者がこの種の計画に賛同している。そして、その計画がフィンランドの現在の福祉制度を改善させる可能性は非常に高い。しかし、いくつかの警告もしておきたい。

私は政策実験などの証拠に基づく政策決定には大賛成だが、今回の証拠は慎重に検討する必要がある。例えば、非熟練労働者の月給の80%に相当するUBIを考えてみよう。2年間の政策実験で得られる結果は、2つの理由から、恒久的なUBIへの移行の結果とは大きく異なる可能性がある。第一に、労働者は非熟練の仕事を放棄して、UBIで生計を立てることに消極的かもしれない。なぜなら、UBIが2年後に終了した場合に、かつての仕事に復帰できない可能性があるからだ。恒久的なUBIのもとでは、彼らは仕事を辞めて、わずかなパートタイムの仕事をすることで20%の収入不足を補うかもしれない。その場合、UBIは余暇時間を増やして、GDPを減らすだろう。第二に、恒久的なUBIによって文化が徐々に変化して、「福祉」に依存した生活の恥ずかしさが低減されるかもしれない。2年間の実験では真実は分からない。

余暇時間が増えることの何が悪いかって?自由に選択したなら文句はない。しかし、UBIには労働意欲を低下させる傾向がある。働かない選択をした人に所得を与えることは、以下のような結果につながるリスクがある(ウェストバージニア州の炭鉱地域に関するReasonの記事から引用)。

FACES(家族・機関・子供の発展サービス)のウィット氏に、この地域のとても多くの若い未婚女性が妊娠している理由をたずねた。彼女はため息をついて、学校では無料の避妊具を配っていると述べた。その上、多くの女性は避妊薬の支払いに使える「受診票」を持っている。(つまりメディケイドに加入している)。それは全く重要ではない。「それは妊娠には何の影響もありません。なぜなら彼女たちは受診票、フードスタンプ、妊娠検査薬、WIC、往診にすぐにアクセスできるからです」と彼女は説明した。「子供が養子でない限り、彼女たちは全ての福祉給付を得られますし、祖父母が子供の世話をするので、ベビーシッターもいりません」

FACESは孫や曾孫の育児をする人々のために、二度目の育児支援団体を組織している。それは毎月一度の会合を開いている。スラグル氏の友人夫妻は、健康問題を抱えているにも関わらず、2人の孫を育てているという。「夫妻のどちらも育児をできる状態ではない」とスラグル氏は言った。「わかるでしょう?私がここを去れば、子供たちは私について来ますよ」

禁断症状

では人々がこの地域を去らないのはなぜだろう。その質問に答えるのは驚くほど簡単だ。彼らは去っているのだ。私の祖父母もそうだが、過去半世紀の間に、マクダウェルの人口の80%は他の場所でチャンスを探すため、この地域を去った。

しかし鉱山が機械化され、後に閉鎖されたときに、残りの人々が出て行かなかったのはなぜだろう?リード氏、ウィット氏、スラグル氏は、マクダウェルの住民の多くがこの地域に住み続け、貧困に陥ったままでいるのは、政府補助金の金を受け取っているせいだと認めた。薬物依存は、気力を失った結果として起きるものだ。

うまく設計されたUBIは、時には100%よりも高い暗黙の限界税率につながってしまう現在の福祉制度よりも、高い労働意欲をもたらすことができる。しかし、うまく設計された賃金補助制度は、もっと良いと私は思っている。

結局は、どちらか一方を選ぶよりも、賃金補助と非常に小さなUBIを組み合わせた制度の方が良さそうだ。なぜなら非常に小さなUBIで多くの人々が労働をやめることは無いし、同規模の賃金補助よりもそちらの方が管理しやすいからだ。だから、寛大な賃金補助制度と最小限のUBIを合わせるのがいいだろう。

私はフィンランド経済をよく知らないが、月587ドルというのは人々に労働をやめさせるほど高額ではなさそうだ。だから私は実験の「成功」を期待している。一方で、全ての福祉制度をUBIに置き換えたいなら、毎月の給付はもっと大きくなるだろう。そしてそのような巨額のUBIによる長期的な影響は、はるかに不明瞭だ。

賃金補助は人々がより長時間働くように促す傾向がある。また、それは人的資本の蓄積を妨げる傾向がある。しかし、あらゆるレベルの教育に対する政府補助金によって、その負のインセンティブは大きく相殺される。