スコット・サムナー「量的緩和は政府の債務負担を減らすか?」
- 2016年6月8日投稿。
- 翻訳記事はここです。
ビルはその答えが「イエス」だと主張する記事を紹介してくれた。
日本は長年の間、世界最大の政府債務を抱えていることで有名だった。もはやそうではない。
実質的な債務負担がどれほど急速に減少しているかを考えれば、だ。推定によると1年ごとにGDPの15%に相当する政府債務が減少しており、債務は管理可能な水準にどんどん近づいている。
状況を一変させたのは、日本銀行による民間投資家からの国債買い入れで、それは一部の経済学者から債務の「マネタイズ」と呼ばれている。国債は政府のバランスシート上に負債として残ったままだが、民間部門が保有しているわけではないので、もはや無くなったも同然だと考えるアナリストもいる。
「日本は民間保有の公的債務が最も急速に減少している国だ」と富士通総研・上席経済研究員のマルティン・シュルツ氏は言った。
シュルツ氏が日銀のデータを用いて計算したところ、日本の政府債務はGDPの2倍以上になっているが、保有者が銀行や家計といった民間主体から、中央銀行に変わっていることが大きな影響を及ぼしている。彼の推定によれば、民間保有の国債は2012年末に安倍晋三首相が誕生する直前にはGDP比177%だったが、2~3年後には100%程度に低下するという。
日本の債務負担が減っているという説得力のある議論をすることは可能だが、その理由は日銀が大量の日本国債を保有しているからではない。正確には日本政府は超低金利から恩恵を受けているのであり、その状況はしばらくの間は続く可能性が高い。
4つのケースが考えられる。
ケース1.日本の金利は永久に低いまま。
ケース2.日本の金利は最終的にゼロ以上に上昇し、日銀は準備預金に市場金利を支払う。
ケース3.日本の金利は最終的にゼロ以上に上昇し、日銀は準備預金付利を中止する。ハイパーインフレを防止するため、日銀は大部分の国債を売却する。
ケース4.日本の金利は最終的にゼロ以上に上昇し、日銀は準備預金付利を中止する。日銀は国債を保有し続け、ハイパーインフレを招く。
ケース1の場合、日本政府はゼロ金利から恩恵を受けるが、それは国債を保有しているのが日銀であれ民間部門であれ同じことだ。日本政府に利益を与えるのはゼロ金利であって、量的緩和の実施とは無関係だ。
ケース2とケース3の場合、日銀の債務マネタイズが政府の債務負担を減らしたように見えるかもしれない。しかしこれはまやかしだ。ケース2の場合、日銀は購入した国債の裏付けとなる準備預金に対して、金利を支払い続ける必要がある。日銀は日本政府の一部なので、政府の債務負担であることに変わりはない。ケース3の場合、国債は最終的に売却されるので、長期的には債務負担が存在し続ける。
ケース4は、債務負担を減らす方法として最も有望に思える。市場金利がゼロ以上に上昇したとき、準備預金付利をゼロのままにするなら、日銀は大量の国債を売却するか、ハイパーインフレに直面しなくてはならない。日銀が国債を売却せずにハイパーインフレが発生した場合、債務負担が激減するのは明白だ。しかし日銀が近い将来、ハイパーインフレを容認することはありそうにない。よって、ケース4が起こる可能性は非常に低いだろう。
結論:そんなうまい話はない。政府が低金利から恩恵を受けないと言っているわけではない。今後100年間の平均金利がわずか1%であれば(日本のような国ではありえなくはない)、GDP比200%の債務があったとしても、利払いはGDP比2%で済む。
米国、英国、日本などの自国通貨を持つ国では、現在の低金利によって債務負担は非常に小さくなっているが、自国通貨を持たない国でも、債務返済の約束が信頼されているドイツのような国では同じことが言える。ギリシャの政府債務でさえも、ドイツ、日本、あるいは米国の金利であれば容易に管理することができる。もしもギリシャ国債がドイツ、日本、あるいは米国に債務保証をしてもらえば、ギリシャ政府の債務返済は容易になるだろう。しかし、ギリシャはモラルハザードと時間的不整合の問題に陥りやすい国なので、他国は債務保証をするのは軽率だと考えるはずで、その場合、ギリシャは債務不履行を起こすだろう。