スコット・サムナー翻訳

名目GDP目標、マーケットマネタリズム

スコット・サムナー「格差を語るクルーグマン」

  • 2015年12月3日投稿。

 

クルーグマンがNYレビュー・オブ・ブックスで、ロバート・ライシュの新著を論評している。

2000年以降に何かが変わり、資本に対する労働者の力は弱まった。何十年も安定していた労働分配率は急低下を始めた。

これは少々誤解を招く言い方だ。実際のところ、労働分配率は(労働組合の全盛期だった)1965年2月の68.0%から、2015年2月には68.1%と、過去50年でわずかに上昇している。少々誤解を招く、と言ったのはそれが完全に間違っているわけではなく、確かに2000年以降で見れば労働分配率が低下しているからだ。

この記事のコメント欄で、マット・ロンリーは労働分配率のデータに多くの欠陥があることを指摘し、最近の労働分配率の低下が誇張されていることを示唆している。一つの論点として、自営業者の労働所得をどのように扱うかという問題がある。(ロンリーはいくつかコメントを残しているので、それら全てを読むといい)。ロンリーとケビン・エルドマンは共に、最近の資本所得の増加は多くの人が考えるような明示的な「所得」の上昇ではなく、持ち家の帰属家賃の上昇が原因だという事実を指摘している。

資本の側もあまり好調ではないことを理解するには、1980年代には7%近くあった10年債の実質金利が今日は0.7%にまで低下していることを見ればいい。

クルーグマンは続ける。

市場支配力の強力さを示す間接証拠もある。例として、最低賃金の変化による影響を調査した広範な実証研究の文献がある。従来の需要供給分析では、最低賃金の引き上げは雇用を減らすとされてきたが、ライシュが指摘しているように、今日では最低賃金を引き上げた州に属する郡での雇用と、州境をまたいだ近隣の郡での雇用を比較した対照実験を見ることができる。そしてそこでは、雇用を減少させる効果を示すデータは見つからなかった。

なぜか?1つの有力な仮説は、ファーストフード店のような低賃金労働者を雇用する企業が、労働市場で買い手独占の立場にあるということだ。つまり特定の労働市場においては、それらの企業が低賃金労働者の主要な雇い手なのだ。そして価格の下限に直面している買い手独占の企業は雇用を減らすとは限らないし、価格の上限に直面している売り手独占の企業も雇用を減らさずに、増やす可能性もある。

これは自分好みの実証研究の結論をつまみ食いしているだけだ。まず第一に、最低賃金の研究は雇用への影響について明確な結論には至っていない。しかしより重要な問題は、多くの研究が最低賃金の引き上げは価格上昇という形で消費者に転嫁されることを示している点にある。(このことを指摘してくれたマット・ロンリーに再び感謝)。企業が買い手独占の立場にある結果として雇用が減らなかったのだとすれば、賃金上昇が価格上昇という形で転嫁されるはずがない。

クルーグマンは続ける。

昔々、米国とカナダでは労働者の3分の1程度が労働組合員だった。今では米国の労働組合組織率は11%に低下したけれど、国境の北側ではまだ27%を保っている。この違いを生んだのは政治だ。1980年代の米国は労働組合を敵視する政策をとったが、カナダ政府はそうしなかった。

「昔々」から始まるのはどんな物語だろうか?1954年には賃金・給与労働者の35%近くが労働組合員だった。それがレーガン大統領の就任時には21%に低下していた。つまり労働組合の衰退の大部分は、レーガン就任前に起こったということだ。実際に組合労働者の割合は過去60年で低下し続けている。レーガン政権の政策が無関係だとは言わないが、少なくとも主要因ではなかったのだ。

これらの反論があるにしても、(とりわけ上位層での)格差拡大が市場支配力の増大によって引き起こされたというクルーグマンの主張に、共感する部分がないわけではない。私の見解では、米国経済がモノづくり経済から、知的財産権が競争の障壁になるハイテク経済に移行したことが、原因の一部として挙げられる。下位層では、ラテンアメリカからの移民が教育水準の低いアメリカ人労働者、とりわけ男性の賃金を押し下げているだろう。

格差問題には以下の4つの手段で対応すべきだと考えている。

1.低技能の移民の割合を減らし、高技能の移民の割合を増やす-インドと中国には米国行きを望む大勢の人がいて、その数はアフリカや中米、ラテンアメリカよりも多い。

2.知的財産権の保護を弱める。知的財産権は必要だと思うが、それは新たなイノベーションを生み出すためであって、既存の製品を価値を高めるためではない。著作権の保護期間はもっと短くすべきだろう。

3.ゾーニング法を改正して、建築を奨励する。これは非常に難しいことで、実際にはこの問題が今よりも悪化する可能性の方が高い。

4.所得税を廃止して、累進的な消費税と低賃金補助金に置き替える。タバコ税は廃止。麻薬を合法化する。

リベラル派が提案する個人所得税の高い最高税率や、法人所得への課税、相続税最低賃金の引き上げ、労働組合を保護する立法、ビジネスへの厳しい規制には反対だ。ビジネスへの規制を少なくすること、とりわけ職業ライセンス制を廃止することは有益だろう。現在の規制制度は、その扱い方をよく学んでいない人にとっては複雑すぎる。私にとっても今の制度は複雑すぎで、自分の税金を申告するのがやっとなのだから。