スコット・サムナー「なぜ多くの経済学者が日本に財政出動を勧めるのか?」

  • 2017年2月8日投稿。

 

日本に財政出動の必要性を説く記事に出くわすことなく、1週間を過ごすのは難しいようだ。今日も「物価水準の財政理論(FTPL)」を用いた、ノーベル賞受賞者クリストファー・シムズの提言について論じた記事を見つけた。

アベノミクスを再起動するため、彼(シムズ)は金融政策と財政政策が協調して日本のデフレ問題に取り組むよう呼びかけ、日本政府に今後の消費増税はしないと宣言することを提言した。

現在、なぜFTPLのような新しい理論が必要なのかと、不思議に思う人がいるかもしれない。それはオールドケインジアンと同じ結論に至るのだろうか?そこには「流動性の罠」と呼ばれる概念が存在していて、金利がゼロに達すると金融政策は無効になり、財政政策が有効になると考えられている。

うーん、どちらとも言えない。結論はこれまでと同じに見えるかもしれないが、FTPLには少なくとも3つの新たな見方が加えられている。

第一に、FTPLには期待の役割が組み込まれている。重要なのは現在の財政収支ではなく、将来の財政収支がどのような経路をたどるかだ。インフレを起こしたいのであれば、政府が財政赤字を計上することを約束する必要がある。

第二に、FTPLは一般的になされている財政政策と金融政策の区別を否定する。これは政府と中央銀行を連結した、統合政府の理論だ。

いくつかの理由から、私はこの見解に困惑している。

日本は1994年から2012年にシムズが提言した通りの政策を実行したが、無残な失敗に終わった。それは(平時の)世界が経験した最大規模の財政出動と、世界の主要国が経験した中で最悪の総需要パフォーマンスの組み合わせだった。それどころか、実際には名目GDPは下落していた。そう、なんと2012年の名目総所得は1994年のそれよりも低かったのだ。(その期間に人口は増加していた)。ここにグラフがあるが、日本の純債務はイタリアを軽く飛び越して、主要な経済大国で最大規模になっている。

f:id:spsss:20180709033228p:image

債務対GDP比は1994年の20%から、2013年の140%に急上昇した。実際の債務や赤字を見るのではなく、景気循環調節後の数字を見る必要があると不満を言う人もいる。しかし日本の場合、2009年頃を除いて失業率はたったの3%なので、そこに大した違いはない。日本が抱えているのは景気循環の問題ではなく、長期的成長の問題だ。さらに悪いことに、財政政策が緊縮的になっているにも関わらず、日本経済は2012年以前よりも改善している。

私が主張してきたように、アベノミクスはとりわけ雇用の点で良い結果を出しており、インフレ率もアベノミクス以前に比べて高くなっている。安倍首相は日本のデフレは終わったと言いたがっているが、それを宣言するのは時期尚早だ。

残念ながら2013年以後の純債務のデータは持ち合わせていないが、総債務のデータは実際には安倍政権下で財政緊縮が行われていることを示している。債務は増加しているが、増加率は低下している。

f:id:spsss:20180709033251p:image

これは安倍首相が消費増税を実施したからだ。日本の総債務はGDPの250%という驚異的なレベルに達しており、ギリシャよりもはるかに高水準なことに注目してほしい。(ギリシャはグラフで2番目だ)。これは経済学者が非常に危険だと見なしてきた水準だ。確かに金利が非常に低いため、今のところ債務は日本にとって問題ではない。しかし将来、金利が上昇したら?問題が発生するまでは、ギリシャの債務は対処可能な状態にあると見られていた。

もちろんギリシャと違って日本は自国通貨を持っているので、非常時にはインフレで債務を帳消しにできる。だがそれで安心できるだろうか?

結局のところ、日本に財政出動を勧める言説に私が反対する理由は、それが破産につながるからではなく、単に意味がないからだ。

1.日本は大規模な財政出動を試みて、無残に失敗した。

2.2012年以降日本は財政出動の規模を縮小したが、経済は良くなった。大半の経済学者は、今後の日本のインフレ率を1%程度と予想している。安倍首相以前の日本はマイルドなデフレを経験していた。安倍首相が就任して以来、名目GDPは9%上昇している。3.75年間で9%というのは大した数字ではないが、過去19年間で日本の名目GDPが下落していたことを思い出してほしい。また、この9%の上昇は人口が減少する中で起きた。その一方、それ以前の下落は人口が増加する中で起きた。

3.失業率は3%で現在も下落しており、日本企業は働き手が見つからないと不満を言っている。単純労働のために移民も受け入れている。米国と違って日本経済の労働参加率は高く、今も上昇中だ。

何か言い忘れたことはあるだろうか?私は日本の金利がゼロであることを理解しているが、それは長年の間ずっとそうだった。欧米の経済学者はなぜ、何十年も失敗してきた政策が、突然うまくいくようになると期待しているのだろう?政府は責任感を持つべきであり、債務対GDP比を際限なく高めるべきでないという見方はどこに行ったのだろうか?たとえ景気後退が一時的であったとしても、財政出動だけがそれを解決できるとの見方は正しかっただろうか?

日本への財政出動の呼びかけは、呆れるほど多くの点で筋が通っていない。その主張は間違っているというレベルではなく、馬鹿らしいとすら言える。マスコミがテロリズムやカーダシアン家に対して、十分な注意を払っていないと主張するようなものだ。